第1章 あなたが生まれたこの日に
「義勇?」
首をかしげながら、名前を呼ぶ。
「くち」
たった一言、そう返ってきた。
くち?
くち、クチ──、口?
義勇の目線は、瞳よりも下で、確かに口を見ていた。
不満があると口を尖らせる私の癖を、指摘したのだろうか。
最近の義勇は、言葉足らずに拍車がかかっている。
そのせいで悩む回答の多いこと多いこと。
頭を抱えている私に義勇は告げる。
「気にするな」
いや、気にするなと言われても、
「気になる」
座布団を近づけて、義勇の目の前に座り直した。
それから真っ直ぐに義勇を見つめる。
視線が、交わる。
ほしいものを尋ねて、義勇は唇を見ながら口だと言った。
口が、ほしい?
なんだ、それは。
とんちか?
ぐるぐると思考を巡らせて、一つ思い当たることがあった。
それは昔に見た、男女の風景だ。
これは、ひどい当てずっぽうである。
けれども、何故だか確信を持っていた。
なので、行動に起こす。