第2章 残酷
背に動く気配を感じて、警戒をする。
「禰豆子、起きたか!」
炭治郎が嬉しそうに笑顔で話しかける。
先ほどまで、涙をぼろぼろ流していたのに。
これが長男の力なのだろうか。
禰豆子を背負うために使っていた手を離すと、するりと地面へ着地したようだった。
振り返って、禰豆子を見る。
こちらに敵意がないからか襲ってくる様子はない。
人を襲わない鬼。
まじまじと禰豆子を見詰める。
鬼にしては小さく柔らかい印象で、この歳の人間の女としては鋭く尖っている。
ちぐはぐで、珍妙なものである。
けれども、なんだか──、
「愛らしいね」
そう呟くと、反応したのは炭治郎だ。
「ああ!そうだろう!禰豆子は、可愛いんだ!町でも評判でな」
嬉々として語る。
親馬鹿だ。この場合は、兄馬鹿?妹馬鹿、だろうか。
けれど妹馬鹿などと口にしたら、妹が馬鹿にされたと勘違いして、大層怒るだろうから言わない。
妹自慢を一通り聞き流して、
「埋葬、するんでしょ」
と促す。
「そうだった、な……」
歯切れの悪い返事は、家族の亡骸と再び対峙するのは、気が重いせいだろう。
それでも、先ほどまでとは違って、どこか覚悟を決めたような凛々しさがある。
「禰豆子、歩けるか」
炭治郎が禰豆子にそう尋ねると、頷くでも声をあげるでもなく、ただ立っている。
「禰豆子?」
名前を呼ぶが、炭治郎のほうを見るでもない。
まだ意識の混濁があるのだろうか。
「炭治郎、先を歩いてみよう」
「え?ああ……」
二人して家のほうへと歩みを進める。
ちらりと後ろを伺うと禰豆子は、ぽてぽてとついてきていた。
子鴨みたいだな。