第1章 あなたが生まれたこの日に
「誕生日、おめでとう」
そう祝いの言葉を述べる。
本日は、二月八日──義勇の誕生日だ。
それなのに、当の本人は、
「ああ、今日だったか」
寝起きの頭をかいてから、そう呟いた。
どうやら忘れていたらしい。
誕生日に関心がない義勇は、私が向かいに出しておいた座布団に座った。
薄い反応に唇を尖らせて、不満を主張しながら尋ねる。
「義勇は、何かほしいものないの?」
誕生日を忘れているくらいだ。
どうせ、ないと答えるだろう。
期待はしていなかった。
いなかったのだが……、義勇の答えは、沈黙だ。
さすがに何か言ってくれないと困る。
躊躇いなのか、考えているのか、どちらともとれる表情をしていた。