第2章 残酷
それより異変は、女の鬼だ。
彼が義勇に叩き落とされてから、大人しくなり、じっと見ているのだ。
鬼に知能はあるが、理性はない。
倒れた彼を食べようとしているのか。
油断していた義勇は、暴れた鬼の手を放してしまう。
周囲に人影はなく、危険がないと判断してから、私は木の幹に沿って下へと降りる。
その最中、義勇は鬼に蹴られて後ろへ退けられた。
鬼は彼の元へ、一直線に向かう。
食われる。
また──、間に合わない。
それでも、もしかしたら、
すぐに斬れば彼は一命をとりとめるかもしれない。
木の幹を勢いよく蹴って、鬼の元へ飛びながら抜刀する。
斬りかかる寸前に、
鬼は──、彼を守る姿勢を見せた。
「真白!待てッ!」
その一言に、斬る動作を停止させる。
無防備になったところを、鬼に蹴られ、飛んで転がる。
鬼に成りたてな上に人を食べていないせいか、痛みは予想よりも小さい。
安堵の溜め息を吐きながら、身を起こす。
義勇の考えは、大体わかる。
あの鬼は、怪我を負わされ治すためにも力を使い、鬼になる際にも体力を消費している。
間違いなく、重度の飢餓状態だった。
それでも、兄を守ろうとした。
義勇はきっと、そこに一抹の望みをかけるのだろう。