第2章 残酷
「生殺与奪の権を、他人に握らせるな!」
珍しいこともあるものだ。
義勇が他人に怒ることなど、滅多にない。
「惨めったらしくうずくまるのは止めろ!そんなことが通用するならお前の家族は殺されていない!」
その言葉に彼は、顔をあげていた。
絶望に打ちひしがれ、惨めな表情だ。
「奪うか奪われるかの時に、主導権を握れない弱者が!
妹を治す?仇を見つける?笑止千万!
弱者には何の権利も選択肢もない。悉く力で、強者にねじ伏せられるのみ!」
それは、この世界の残酷な理だ。
だからこそ、私たちは強くならねばならない。
ねじ伏せる側にならなければ、死ぬだけだ。
「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない!
だが、鬼どもがお前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ!
当然、俺もお前を尊重しない!それが現実だ!」
慎ましやかでも平和だった生活には、もう戻ることはできない。
どうして妹が、殺されねばならないのか、彼は納得できずとも知らなければならない。
「何故、さっきお前は妹に覆い被さった。
あんなことで守ったつもりか!?
何故、斧を振らなかった!
何故、俺に背中を見せた!
そのしくじりで妹を取られている!
お前ごと妹を串刺しにしてもよかったんだぞッ!」
その言葉は、義勇なりの叱咤激励なのだろう。
義勇は、鬼の胸に刀を刺した。
それでは、鬼は苦しむが死なない。
殺さず傷つけるだけの無意味とも取れる行動は、彼を試しているのだろう。
家族を殺され、鬼殺隊に入る者は多い。
けれど、生半可な覚悟で務まるものではない。