第2章 残酷
義勇は鬼の両腕を後ろ回し、手首で捕らえていた。
殺したほうが、よほど早いのに。
手緩い。
彼は、鬼がいないことに気づいて、顔をあげる。
辺りを見回し、義勇の元にいることに気づく。
「禰豆子……!!」
鬼の名は、どうやら『禰豆子』というらしい。
急いで立ち上がった彼に、義勇は告げる。
「動くな」
動いたところで、何ができるわけでもないだろう。
それにしても、辺り一面は雪と木々ばかり。人影は見られない。
警戒を怠らないようにしながらも、義勇と彼と鬼の三者を見守る。
「俺の仕事は鬼を斬ることだ。もちろん、お前の妹の首も刎ねる」
淡々と、義勇は告げる。
そう、それが鬼となった者と、鬼殺隊である義勇の運命である。
「待ってくれ!禰豆子は誰も殺していない!!」
鬼として目が覚めたのはさっきだろう。
彼の家族を殺したのは、別の鬼だ。
そんなことは、義勇だってわかっている。
「俺の家にはもう一つ、嗅いだことのない誰かの匂いがした!皆を殺したのは、たぶんそいつだ!」
なるほど。
どうやら、彼はあの人──鱗滝さんと同じで鼻が利くらしい。
「禰豆子は違うんだ!どうして今そうなったかは、わからないけど!でも!!」
どうしてそうなった、か。
鬼は秘匿されている存在だ。
一部、伝承として受け継がれているところもあるが、大衆の混乱を避けるためにも噂話に留まっている。
知らないのも無理はない。