第2章 残酷
義勇の一振りに、強い風が吹く。
辺りに積もっていた雪が舞い上がり、乾いた音を鳴らしながら、木々の枝を揺らす。
その吹雪に巻き込まれた彼は、鬼と雪の上を転がる。
雪の中で見えないが、どさりと鈍い音がした。
木にぶつかり、止まったようだった。
義勇に追いつくと
「見ていろ」
と一言、命令が下る。
周りの警戒をしろということだろう。
あの鬼が成りたて、ということは、鬼が他にいることを示す。
分厚い雲で覆われた空では、日の光が届かないために、昼間でもその鬼が活動している可能性がある。
それは、あの女の鬼が焼けずに生きていることからも、そう結論づけられた。
素早く木の上に上がり、周囲の警戒する。
辺りに人影がないことを確認してから、雪の上に転がっている彼を見た。
額に痣。変わった耳飾りに市松模様の羽織り。
歳は、十三か十四といったところか。
鬼に腕をまわして、抱えている。
その顔には驚き、恐怖、疑問、さまざまな感情が浮かんでいた。
「何故、庇う」
義勇の問いかけに、
「妹だ、俺の妹なんだ!」
と彼は答える。
なるほど、妹か。
それは──、
お悔やみを申し上げるしかない。
気を失っていた鬼が、起きて暴れ始めた。
「それが、妹か」
義勇の声には、少しだけ怒りの色を帯びていた。
義勇は一歩踏み込んで、間合いを詰める。
彼は再び庇おうと、抱えて身を伏せるが──遅い。