第3章 tease
僕は彼女のほんのりと朱に染まった頬に触れる。
彼女はまるで話のわかっていない仔犬だった。
どうしたらいいの?とでも言わんばかりに僕を丸い目で見つめている。
「ねぇ、ちゃんと聞いてるのかい?」
「聞いてる…、けど…」
彼女は頬に添えられた僕の右手を両手で包み込み、消え入りそうな声で答えた。
戸惑っているのか、しばらく顔を俯けていたが、最終的には僕の胸に顔を埋めた。
その間、僕の手はずっと握られたままだった。
「…なんか、いろいろ考えた私が馬鹿みたい。」
顔を上げないまま、彼女は呟いた。
「そうだね。」
と僕は返した。
「………何も聞かなかったことにしといて。」
彼女はさらに続けた。
「仕方ないねぇ…、"好きにしていい"だなんて、聞いてないよ。」
ふと、視線を下げれば、彼女がじっとりとした目でこちらを見上げていた。
「………私も、何も聞かなかったことにしとくから。」
念を押すような言い方だった。
「じゃあ、もう一度言おうか?」
「いい、大丈夫…!」
「そんなにしがみついておいてかい?」
彼女ははっとした様子で僕から離れた。
僕にとっては、そんな彼女の反応が面白くて仕方なかった。
「早く、ビリヤードしよう?」
「わかったよ。それで、これは脈ありってことでいいのかな?」
逃げるようにキューを取りに行く彼女が振り返り、僕を睨んだ。