第8章 make up
「他に触れさせたくないんだよ。君がまったく意識してないことくらいはわかってる。こればかりは本能さ。困ったことにね。」
自嘲気味な言葉を並べる彼の声色はいたって淡々としていた。
「クジャ……」
「また惑わせることを言ったかい?」
「今に始まったことじゃないわ。」
どうしてか、どうしようもなく彼の顔が見たくて腕を引けば、いつもの何かを包み隠したような艶やかな表情がこちらを向いた。
「……悪かったね。」
クジャは罰が悪そうに紡ぎ出した。
どこか素っ気ない、下手くそな謝り方だった。
私は彼の首に腕を回した。
それから耳元に口を寄せて、けして彼だけにしか聞こえないように小さな声で囁いた。
やはり、口にするのは恥ずかしかったのだ。