第1章 序章
部屋は角の部屋だった。
「……大鍋に、薬品、薬草……欲しい物がほぼ揃ってる」
大鍋は新品。しかも窓も大きめだし換気に良さそう。
「…………ニコラさん、ひょっとして錬金術師ではないんでしょうか?」
「……………………弟子達が私のことを誇張して触れ回った末、私は歴史では立派な錬金術師になってしまった。本当の私は薬とか魔力を込めた特殊な道具を作れる魔女。歴史に残る私は男で、賢者の石を精製したらしいけど……それも全て弟子達のせい」
厳密に言うと父親がヴァンパイアで母親が魔女。両親は魔女狩りによって殺された。
全ては一人の少年の母親の病を治す薬から始まり、いつしか私の住む工房には数人の弟子達が住み込むようになった。
「なんだか嬉しそうな……寂しそうな表情ですが」
「……弟子達がいた頃は楽しかった。いつも笑ってたし、失敗しても何も怖くなかった…………あの人を失うまでは」
なんだかしんみりした雰囲気になった。
「セバスチャン……だっけ。案内ありがとう。ここの住人達にもよろしく伝えておいてほしい」
そのままセバスチャンから背を向けて薬を作り始めるのだった。