第1章 猪の子と年増の女|伊之助
背中に回された手でぎうぎうと締め付けられ、んっと息ができなくなり、その間中腹の下のあたりに何か硬いものがあたるような気がした。おやおや、まさか。それは、偶然ではなくてぐいぐいと、わざわざ押し付けてくるようでもある。
「お前がっ…誘ったんだからなっ。」
まあまあ、なんと。若いこと。
うふふ。可愛らしい顔で、男の子のようなことをいうものだから、おかしくって手を口元に置いて笑えば、手首をぐいと掴み頭の上で固定される。
「そんな可愛らしい。真っ赤になって。」
こんな、ほぼ裸の状態で抱き合っているなんて、若い子をたぶらかしていると、思われてしまいます。私は楽しいのだけど、この子にとっては不名誉なことになりかねませんわ。
「でもねえ、そういうことは、こんな年増でなくて、恋仲のお相手に言ってさしあげなさい。」
ももいろの頬をひとなでして、ふっと耳元で囁いてみせた。獣のふりをした可愛い子は、ぴくぴくっと体を震わせると私を捉えていた手をぱっと放し、耳に手をやり、驚いた顔で固まっている。
体の下からするりと抜け出してみせると、ひらひらと裾をたなびかせながら元きた道を踊るように走った。追いかけてくる気配もないので、途中で見返りながら、んふふ、と笑いかけてやれば、顔も体も真っ赤にして、こちらを睨む猪の子と目があった。