第1章 猪の子と年増の女|伊之助
やあやあと賑やかな声がきこえるものだから、湯浴みのあとの浴衣のままちょいと部屋から出てみれば、縁側に猪の被り物を置いて、そばに弱々しく横たわっている子の姿が見えた。
まあ、珍しい。いつもの三人組ではなくて一人でいるなんて。
残りの二人の楽しそうな声は聞こえるけれどだんだんこちらから遠ざかっていった。大方あの三人で勝負して、あの子が負けたとかそんなところなのでしょう。だってうつ伏せで伸びきって、手足をばたつかせている様子は、なんだか、いじけているようなんですもの。
「どうしたんだい。こんなところでひとりで。おねえさんがきいてあげようか。かわいそうになでてあげようねえ。よしよし。」
いつもの虚勢はどこへいったのでしょう。ゔーゔーと唸りながら、伏せていた顔を少しだけあげて、こちらを伺い見る様子はまさにふてくされた童女そのもの。
ああ、なんて愛しいのだろう。
うっとりとそんなことを思いながら、でも口に出せば、きっと心底嫌がられるので、「大丈夫よ」とだけ言い、たまらず覆いかぶさるように抱きしめてやれば、この子にしては珍しく、がばっと、だきつきかえしてくる。
猪の子の重みを全身で感じながら、さらさらの髪を撫でてやった。すん、と息を吸えば、汗の香りがした。