第2章 冨岡に陶酔した継子|冨岡
天笠はため息をついた後、唸り声をあげながら立ち上がった。体を動かしてきますと言いのこし、障子をすい、としめるが、障子のすぐ側で気配は動かず、じっとしている。どうしたものかと思いそっと伺いみると、日の光を浴びて、縁側に腰を下ろしたところで、草履を履こうとしたのだろうか、そのまま、背中を丸くして眠っていた。
なんと器用なものか。
今日は珍しく気候がよいが、秋の天気は変わりやすい。寒くなる前に声をかけよう。部屋に置かれたままの羽織をそっとかけてやった。
いや、その前に昼餉だから、勝手に起きるだろう。
障子をあけ、採光を大きくしてやれば、座敷の中ほどまで明るくなった。
日の暖かさにたまらずごろりと寝ながら眺めていれば、天笠はもごもごと何か呟きながら縁側に横になった。居心地いいところを探しているようにせわしなく体を調整しているようだ。頭がそれにつられて動くと、黒髪が流れ光を反射した。一瞬こちらを向いたように見えたがまた向こう側に向きを整えるとその後は落ち着いたようで、ぴたりと動きを止め、ゆったりとした呼吸が聞こえるようになった。
眩しいな…。目を閉じれば、先程の横顔が脳裏に浮かぶ。
つい先刻まで鬼を追って山中を走っていたのが嘘のような、穏やかな時間だった。大きく息を吸うと漂う薪が焼ける匂いの中に米の炊ける芳が微かに混じっている。
眠い目を擦りながらひとりでにむくりと起きて、さも嬉しそうに昼餉に向かうのだろう。そんな様子が容易に想像でき、思わずふっと笑ってしまった。
天笠に習って俺も少し休もう。緊張をとけば、ゆっくりと眠りに沈んでいった。