第1章 #01
もう一度餌をつけるのをお願いして、海の中に釣り糸の先を投げ込む。釣れたと言っても30分に1匹ペース。これはまた長い戦いになるな……。
気長に待つか、と欠伸をしたとき浜辺の方に人影を見つけた。若い男が数人。
意識して目にとまったのは多分、影山と友達じゃないかと思ったから。その中の1人がこっちを見て動きを止めた。
背丈から見て、影山……?
こっちを見て止まってるってことは、私に気づいてるんだろうか。
まあいっか、と釣りに意識を戻す。
「たぶん外から来た子たちだろうねえ」
「あの中に知り合いがいるんですよ。昨日偶然会ってめちゃくちゃビックリしました」
「てことは宮城のかい?それすんごい偶然だね……!」
会ってこなくていいの?って聞かれたけど、きっと影山しか知らないし。昨日私が知ってる人がいるなんて言ってなかったから。
それに影山とだって最近は別に仲良くない。
結局男の友達とだけ来てるみたいだけど、やっぱりきらきらしてるなあ……。横目でもう一度だけ見て、でも私には関係ないって意識をそらした。
しばらく海を見つめて、魚が餌に食いつくのを待っていた。
「おっ」
山下さんが小さく声を上げたから、また魚がかかったんだと思った。だけど視線をずらしてみれば山下さんは、防波堤に沿って私の後ろを見て少し驚いた表情をしていた。
ん……?
かすかにコンクリートとサンダルが擦れる音と、若い男たちのしゃべり声が聞こえる。ていうか普通に人の気配が。
どうやらやって来たのは魚じゃなくて、知人の方だったみたいだ。
「か、……」
影山が一番近くにいるんだろうと振り返って、すぐに名前を呼ぼうとすればそこに居たのは影山じゃない大きな男の人。
誰……!
あれ、影山は?
目の前の凄い髪型をした黒髪の男の後ろをキョロキョロと覗けば、かっこいい男に肩を組まれて機嫌の悪そうな影山を発見した。
目が合うと、男の肘を振り払って何故か照れくさそうに私の所へきた。黒髪の人の隣で止まると、「おす」と小さく挨拶してくる。
この人影山よりでかい……。
「また会ったね。いや、ダサい格好でなんというか……」
まさか会うとは思ってなくて、今の服装が恥ずかしくなる。影山は昨日同様ラフな格好だけど、元がいいから似合ってるし。