第2章 #02
訳が分からないのに、私の頭には抵抗する選択肢が思い浮かばなかった。
声もあげずに……砂浜に足を取られて、視界がぐらぐら揺れて、何度も転びそうになりながら。必死に堅治の背中を追いかけた。
浮かび始めた涙をこらえる。こんなことで泣いてたまるか。
走っている中でどんどん思考回路が回らなくなってきた。もう今見えてる光景しか頭に入ってこない。
全速力だから息も上がって、ハアハアと苦しい音で二酸化炭素を吐き出す。その声だけが自分の中で響いて鳴る。
ただひたすらに、正しいのかも知らないまま走り続けた。堅治は一度も振り返らなかった。私の腕を掴む力が緩まることは一切なかった……。
砂浜の本当に端の方。あの立ち入り禁止の崖から繋がってる岩陰の後ろに入り込んで、ようやく堅治が足を止めた。
私は堅治に衝突する形で止まるも、その弾みで膝がカクッと曲がって後ろに体が傾いた。
あっ……。やば、足震えて踏ん張りきかなっ……。
「おわっ……!」
「っ…」
腕を強い力で掴んでいた堅治を逆に私の体重が引っ張る。とっさで手を離せない堅治は、何とかわたしを転ばないように腕を引っ張り返すけど。
勢いには逆らえなくて、倒れ込む私の上から倒れ込む堅治がスローモーションで見えた。
パッと手が離されても、もう遅い。
ーーードサドサッ
「痛っ……!」
尻もちをついて後ろに手をつくようにして私は倒れ込んだ。
堅治は最後まで私にぶつからないように踏ん張ってたけど、結局私の体を覆うように四つん這いになって倒れ込んだ。
堅治がとっさの機転で腕を開いて四つん這いになったおかげで、お互いの体は衝突はしなかったけど……。
「……!」
「はあっ…はあっ…」
倒れた私と堅治の顔と顔が、少し動けば触れるぐらいの距離にあって。
驚いて堅治が見開いたその瞳の中に、不格好に息を切らした私の姿が見えるほど至近距離だった。
息がっ、苦しい……。
二、三秒。状況を理解するよりも呼吸をすることに気が行って。
荒々しく空気が出入りするその口に、何か熱い風が勢いよく触れた時に初めて自分のしてることに頭が回った。
熱いのは、堅治の吐いた息だった。
「はあっ…ごめ…」
さっと顔を逸らす。私はこの距離で、何度も堅治に息を吐きかけてしまってたみたいだった。
さ、いあくっ……。