第1章 #01
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家に帰ると、おばあちゃんは台所で夜ご飯を作っている最中だった。我が家のキッチンとは違って、おばあちゃん家の台所は窓の方を向いて料理するように出来てる。
我が家では、料理するお母さんの顔を見ながらよくお父さんと手前のテーブルで話したりしたっけ。
昭和に出来た家だから、部屋もほとんど畳だしリビングとキッチンは別々。……というかそもそも台所と居間だし。
とにかく色んなところが違ってて、居心地が悪いことは無いけど匂いは独特だし少し古びてるって思う。
しかも両親がいない状態で普段と違うところにいる訳だし、多少の違和感というか、普段とは違うなとは感じるわけで……。
なんだか落ち着かないな……。
「おばあちゃん、今日のご飯何?」
「今日はスパゲッティやわ。美味しいソースの作り方教えて貰ったばっかりなんよお」
ゆっくりとした口調で言いながら、おばあちゃんは柔らかい笑顔を見せた。
背が低くてほっぺが丸いおばあちゃん。髪の毛は一切白髪染めしてないから、今はもう全部灰色の毛に入れ替わってる。
嫌味は言わないしすごく優しい、まさに日本のおばあちゃんって感じのおばあちゃんだよなあって見る度に思う。
今どき凄い若いおばあちゃんを美容品のCMとかで見かけるけど、うちのおばあちゃんはそういうのには凄い無頓着。でも私はそれでいい。元気でさえいてくれれば。
何も言わず私をそばに置いてくれてる優しさに、きっと凄く救われているから。
ご飯を食べてシャワーを浴びて、お風呂上がりのアイス。かき氷タイプを食べたのが久しぶりで、昔が懐かしかった。
畳の上に敷かれた布団に横になって、蝉の声に耳を傾ける。暗い部屋に聞こえるのは蝉の声だけ。こんな田舎じゃ9時になれば車の音一つしない。星もよく見える。
蝉、ずっと鳴いてて疲れないのかな。
私は疲れたよ、って、別に疲れてもないけど誰かの同情が欲しいのか、弱音を吐き出したくなった。こんな日があと1ヶ月続くんだ。
裏を返せばもう、あと1ヶ月しかないんだ………。
朝目が覚めて一番に冷たい水で顔を洗う。気のせいだとは思うけど、田舎の朝は空気が気持ちいい。
ほんの一瞬だけ、すごく清々しい気持ちになれる。
「今日も海に行くんかい?」
おばあちゃんが尋ねる。私は白米を噛みながら、大きく一度頷いた。