第1章 #01
「なんで聞いたの?」
「いや、別に……なんとなく」
影山の言い方はどうも“なんとなく”聞いた感じではないようだった。なんとなく聞く奴は、もっと淡白にそう言うし。
聞いた理由が他にあるんだよ、ってわざと主張でもしてるのかと思うほど、誤魔化しを効かせたみたいな言い方だった。
影山に言う気がないなら別に構わないけど……どうせ大したようではないんだろうし。
「ふーん」
「……」
「行かないの?」
「……行く、じゃあな」
影山はぎこちなく手を顔の高さまで挙げて、無表情のまま足早に来た道を下っていった。
身軽そうな体の動きだな……。
ていうかあの手の挙げ方とか表情とか、女子に手を振り慣れてない感じだったなあ。小学校の頃はもっと天真爛漫だったというか。
変わっちゃうもんだねえ……。
視線をまた海に戻す。けれど、頭からしばらく影山が離れない。
友達と来てるって言ってたっけ。一人でおばあちゃんの家に預けられてる私とは違う。友達がいない訳では無いけど……。
なんだか影山は私よりきらきらしてるな、って思った。
もしかしてここに来てる友達とかも男女混合なのかも。女子と率先して話すタイプじゃないって中学校の時は思ってたけど、あの顔だし彼女の一人二人くらい。
旅ってどういう経緯でここに来ることが決まったんだろう?それともここは目的地の通過点?
私だって友達と夏休みの約束の一つくらい……。
どうしてだろう。あんなにぼーっと海を見てて、それだけだったのに。別に何がしたかったとかはなかったのにな。
「暇……」
こんなところにずっと一人でいれば、いつか暇になるとは思ってたけど影山にあって何だか急かされたみたいだった。
夏休みに一人ぼっちで何やってんだんだろう。何故か、そう思わされた。
そうしたら今私がぶち当たってる大きな壁への焦りと、それに対して何も出来ない無力感に襲われてしまって……。他にも色んな感情が沸き起こり始めた。
悲しみ、疑問、諦め、怒り……。むしゃくしゃして、たまらない。
夕方の、日が落ちるときまで私はずっと海を見つめてた。途中からはぼーっとしてたけど、我に帰った時はまた焦りに襲われた。そうだった……海を見てる時だけ、私は焦りを忘れられてたんだ。
ここに来る前からずっと胸には大きなつっかえがあったんだ。