第1章 #01
眺めていてどれぐらい経ったかな。海を見続けてぼーっとし始めた私の頭の中からは、影山の存在は消えていた。
ふと意識が戻った時にまだ影山がいてビックリしたくらい。そういえばいたっけ?っていうのと、まだいたの?っていう二つに対する驚き。
いや、本当にいつまでいる気?
私とは違ってぼーっとしている様子もない影山の横顔に話しかける。
「戻らないの?」
「……」
ちらりと視線だけを私にやる影山。
「お前は?」
「夕方ぐらいまで、いようかな」
「いや。夕方って…今二時ぐらいだぞ?それまでただ海見てんのかよ」
呆れた物言い。影山の溜め息と重なるように、彼の方からケータイの着信音が聞こえた。
デニムのポケットからスマホを取り出して、私を気にする様子もなく電話で応答を始める。
相手はやはり砂浜にいる友人らしく、電話の向こうの大きな声が私の方まで聞こえた。お前なにしてんの?だって。
「海見てたんだよ。……おう、今行く。っおい、まじかよ……」
通話を切って画面を確認した影山は何かに気づいたみたいで頭をかいた。
「どーしたの?」
「もう三時前になってた。そろそろ行くわ」
「えっ、ほんと?……。じゃあ楽しんできて」
そんなに居たの……?なんというか、馬鹿じゃん影山。
立ち上がってお尻の砂を叩く影山に軽く手を振った。なんとなく手を振り返して颯爽と走っていくのかと思えば、影山の反応が悪い。
何その微妙な顔?
「あー、っと」
「?」
口ごもって何かを言いたそうな様子だ。私には目を合わせず、視線は下の方に向けられている。
何だろう?と思いながら、適当に砂浜の方を見て言葉を待った。
「お前いつまでここにいる?」
え……?
その言葉に影山の顔を見る。気まずそうに聞く彼とは、やはり目は合わない。
何でそんなに緊張?して聞いてくるんだ……。
「だから夕方までって……」
「じゃなくてばあちゃん家。今日帰んのか?」
ああ、そっちか。
その質問に少し胸が痛む。
「帰らないよ。夏休みいっぱいはここにいるつもり。そっちは今日帰るの?」
「いや、今日はまだ。……結構いるんだな」
「まあね」
影山の様子から何となく、私の最近についてはやっぱり知らないんだとわかった。私も影山の最近なんて知らないけれどさ。