第2章 #02
そうは思いつつも……。
研磨しか知らないけど一度ちゃんと拒否してるし、流石にもう何かして来ないんじゃ……?って期待してしまう。
期待というか、祈りに近いような。
今だって私に視線を向けることなく、黒尾さんは普通に歩いてるだけだし。
見境なくとは言ってもちょっとは好みに合ってる方がいいだろうし、簡単に体を許してくれるタラシの女の人の方がいいに決まってる。
「ったく……」
「英太さん気にしなくていいよ。たぶん私にはそういうの大丈夫だとおも……」
「お前あいつのどこ見て警戒心緩めてんだ?悪いこと言わないから、たとえ無駄でも警戒しとけ」
もはや黒尾さんに隠す気もない普通の声の大きさで言う英太さん。
そう言わしめる黒尾さんが悪いとは思いつつ、既に私に対してその気がないならいつまでも警戒してたら申し訳ないとも。
どっちにしたって自分から近づくことはたぶんないけど……。胸触られたのは事実だからね。
「それちょっと酷くない?お前らだけ七世ちゃんと仲良くなってんじゃねえかよ」
「お前は聖人にでもなってから出直すべき」
「ンだと?」
ありゃりゃ、喧嘩始まっちゃったよ……。シチュエーションは違えど、私のために喧嘩してるってやつだ。
申し訳ない。特に英太さんに。
周りの人たちはというと二人の喧嘩に慌てる様子はなく、気にしてもないみたいだ。何より喧嘩してる二人が普通に歩きながら器用にガミガミ言ってる。
転んだりぶつかったりとか考えないのかな、暗いのに。
「はあ……」
近くにいるからか、唯一ため息を吐き出した研磨に肘の辺りを掴まれて、二人から少し距離を置いた位置を歩くことになった。
英太さんって思ったよりも熱血な感じの人なんだな。
「ごめん」
「いや全然。むしろ私がごめん」
「謝る必要ないよ……。でも、本当にクロを簡単に信用するのはやめた方がいいよ」
「おい研磨ァ!」
「……地獄耳」
幼馴染にそう言われてしまっては、無視するわけにはいかないのかも。
……私が普段一緒にいる女の人と違うからって、それも関係ないかもしれない。
既に何人にも忠告してもらったのに深く捉えきれてなかったのが申し訳なかった。影山や堅治だって言ってくれてたのに。
「わかった」
黒尾さんには悪いけど、やっぱり素直に従っておくことにした。