第2章 #02
黒尾さんから一歩引いたところを研磨と並んで歩く。
「ありがと」
「別に軽いし。誘ったの迷惑じゃなかった?」
「うん、感謝してる」
「そっか。それならよかった」
夜風みたいにさらさらした声。言葉に合って安心した風な声色じゃなくて、それが逆に研磨らしさを出す。
門のところで待っててくれた六人に合流すれば、数人は「よう」って挨拶とか名前を呼んでくれたりした。
「早く行こーよ!」
「待たせてごめんね」
張り切っている覚くんが、一番に体を進行方向に向けて歩き出した。
さり気なく影山と堅治が覚くんと黒尾さんの、私に対して中間地点になる部分に入ってくれる。
近づくなって昼に言われてたっけ。黒尾さんだけについての話だったけど。
「いいよ〜!むしろ七世ちゃん来てくれてテンション上がるしネ!」
「悪いな、夜遅くに」
言い出しっぺなのかな……?って考えちゃうほど、確かにテンションが高めの覚くん。
続けて英太さんが、覚くんの少し後ろを歩きながら振り返って言った。少しずつ歩くスピードを落として、英太さんは私の隣を歩き始める。
左は研磨、右は英太さんで二人に挟まれる。
私は英太さんの言葉に少し遅れて、慌てて首を振る。迷惑だなんて全然。
「誘って貰えてありがたいです。どうせ暇だし、昼も楽しかったから」
「楽しんでくれてたのか?飯の前、嫌な思いさせたと思ってたんだけど」
「あー…、嫌な思いではあったけど」
他の人には特に何かされたわけじゃないし、研磨が気持ちをスッキリさせてくれたのもある訳だし、いつまでも根に持ってるわけじゃない。
それにその事以上に、ずっと独りだと思ってた此処に居る一ヶ月の間に、同年代と一緒に過ごすことが出来たのが嬉しかったから。
……嫌なことよりも、全然普通に楽しかったんだよ。
「今は気にしてないんだよね」
「そうか。でも警戒はしとけよ?黒尾マジで見境ないから」
英太さんが若干声を潜めるようにして忠告してくれる。この人も良い人に違いない。
「おい瀬見聞こえてんぞー」
「聞こえてんなら改善しろよ、女たらし」
「へいへい」
黒尾さんの気だるげな返答に、これは直す気ないやつだなってのがわかる。
ていうか今までこういう注意を全部無視して出来たのが今の黒尾さんなんだろうな。