第1章 #01
それから程なく、洗車をしていた四人も部屋に戻ってきた。
ホースを持ちながら暴れ回ったのか、Tシャツに濡れた染みを作っている女たらし二人。疲れた様子の研磨と、無表情のアカアシさん。
部屋の襖が開いた時点ですぐに、堅治がアカアシさんを呼び止めた。
「赤葦」
「なに?」
「ちょっと来い」
「……」
表情が変わらない人だな。
黒髪や堀の深くない端正な顔立ちも含めて、知的そうに見える反面感情が乏しそうにも見えてしまう。
笑ったりしなさそう。見れば見るほどクールそうだな。
何も言わずにこちらに歩いてきたアカアシさんは、影山と堅治の後ろで立ち止まって堅治を見下ろす。
その様子を私は見上げてアカアシさんの顔を観察していた。
「お前まだ七世と喋ってないらしいな。して、自己紹介」
「……!」
チラりと私の方にアカアシさんの視線が向いて、慌てて逸らす。
一瞬目があった。見てたことバレたな……。
絶対良くない印象を与えたとは思いつつ、よく知らない人間相手にいきなり弁解をかますわけにもいかない。
影山が紹介してくれるって言ってたけど、結局はお互いで自己紹介を交わす形になった。
「赤葦京治です。よろしく、七世」
「よろしくお願いします、井上七世です。えっと……」
「二口呼ぶのと同じ感じでかまわないよ、学年同じだし」
「京治、でいい?」
「名前で呼ばせてるんだ?…別にかまわないよ」
堅治に言ったあと、私の方に視線を向けて言って頷く。
喋った感じ嫌な感じは全然しない……?かも。人懐っこい人じゃなければ、人を突き放す人でもない。
爽やか、とは違って。何だかスッキリした雰囲気の人だなと思った。
「お疲れ。とりあえず座れよ」
「ああ、ありがと」
影山が堅治との間を少し開ける。二人の間に座るとなにかの糸が外れたように、京治はため息を吐いた。
「本当、あの二人どうにかならないかな。黒尾さんと木兎さんが揃うよりはマシだけど」
手綱を握るのがうまいとは聞いてたけど、普通に悩ましそうなんだけど……。
京治がそう喋って表情を変えただけで、また私の勝手な先入観と偏見が間違っていたことがわかった。
いい加減やめないと失礼だよな……。
心の中で極度のクール認定してた京治に謝る。