第1章 #01
木兎さんがどこの誰かはわからないけど、たぶん研磨の言ってたここに来てない友達のことかな。
及川先輩の話同様、特に気にせずスルーした。
「一回シメれば?」
「あの二人にはいろんな意味で無理」
いやシメるって……上下関係ないとは言っても、仮にも年上にはあたる訳でしょ。
ぽんと言ってのけた堅治と、するべき事としては否定しない京治の両方に驚く。
男子特有なのかな。そんな簡単にシメるもんなの…?友達のこと。
「黒尾さんは返り討ちだろうな」
「天童はあとあと仕返しが怖い」
「それに二人とも察しがいい人たちだからね」
冗談じゃないみたい。本気でシメた時の事考えてる……。
堅治とかは苦笑してるけど、誰一人間違ったことを言ってるって認識がないマジな目をしていた。
全員が影山と重なって見えて、あ…この人達馬鹿だ、って思ってしまった。
馬鹿というか、私と感覚が違いすぎてそう表現するしか思いつかなかった。
*
それから少し喋って、ほどほどに山下さんの家から退散することになった。
私は今日のところは家に帰ることにした。また往復して海に行きたくないし、日差しが眩しくて少し眠たかった。
初めて会った人ばかりと一緒にいて、気を張ってたのかなんだか疲れた。
「また来いなあ!」
「お手伝いありがとうね」
山下さんたち夫婦が玄関先から見送ってくれて、そのまま私たちはゾロゾロと歩き出した。
影山が隣に来る。
「お前、この後は?」
「家に帰る。ちょっと疲れたし」
「そうか。ちゃんと寝ろよ」
「うん」
答えながらあくびが出た。私のあくびに釣られて影山も口を大きく開けた。
みんなはこの後何をするんだろうか。まあ、知ったところで……って感じではあるけど。
不意に見上げた太陽の光が眩しくて、外で遊ぶなんてことになったら研磨大変だなと思った。後ろ姿を見るとやっぱりどこか気だるそうだった。
散歩、悪いことしたな。
「あ、私こっちだから」
影山だけに伝えたつもりが、ぞろぞろと振り返る数人に合わせて全員が最後尾の私に視線を向けた。
「ありがとうございました、楽しかったです。また会う機会があれば」
ぺこりと頭を下げて、特に反応の声は聞かずにおばあちゃんの家へと歩く。
ほんの少しだけその足取りが弾んでいた。