第1章 #01
なんていうか……綺麗で大きな目してるな。昔に比べて目元がつり上がってるけど。
「ゲームに負けたから、俺一人でここに登ってきた」
「ああ、なるほど」
この崖からあの砂浜まで普通に歩いて7~10分ほど。ここで多少私と喋ったところで、元々時間がかかるんだから誰も気にならないだろう。
にしても罰ゲームで一人でここまで歩かされるって、本当女子とは別の生き物だよなあと思う。
気温はそこまで高くないけど、髪の毛の生え際や首筋なんかにじわっと少量の汗を影山は滲ませていた。日焼け止めを塗ってないのか、肌は私よりも少し色が濃かった。
「お前は罰ゲームじゃないなら、なんでこんなとこ登ったんだ?」
「……」
そんなに道のりは険しくないけど、わざわざ登りたい所でもないだろ?と影山が尋ねる。次は襟で鼻から下の顔の部分の汗を拭っていた。
「今更っちゃ今更だけどさ、ここ立ち入り禁止なのわかってるよね?」
「えっ、まじか」
「看板気づかなかったの?」
あんなに堂々と書いてるのに?私が小さく笑うと、影山は照れた様子で「おう」と答えた後に少し笑った。
何だかんだ、今会ってから初めて笑ったの見たな。
ここは崖って言ってもそんなに高いものじゃない。広さも十畳分はあるし、滅多なことがなきゃ転落なんかはしない場所だ。
ここら辺の住人の子供たちの間で飛び込みスポットになっていたぐらいだし。だけど数年前飛び込みで一人の子が意識不明になってしまって、それからは立ち入り禁止になったらしい。
その子は助かって今ではピンピンしてるみたい。無事でほんとによかったなと思う。
「……ここ、テトラポットが視界に入らずに海が見えるでしょ?それに、高いところから見る方が私は好きなんだよね」
「だからって立ち入り禁止のとこにわざわざ登ってくんのか?他にも高くから見えるとこあんだろ」
首を振り辺りを見回す影山。私は心の中でそういうことじゃなくて、と海に視線を戻す。
過去のことを思い出して辛くなるのに、でも辛さに負けないくらい過去にここから見た海が綺麗で。
「好きなの。ここから見るのが一番」
影山の視線が海に向かうのがわかった。たぶん影山にとっては、ただの海にしか見えない景色だけれど。
何故か影山は黙って、しばらく海を眺めていた。