第1章 #01
自分が二口さんそっちのけで勝手にこっちに来といて、お前も来いよって……。
言い方が間違ってることに気づいてないあたり、本当にお馬鹿さんだなと思う。
二口さんはそうは言いつつ、でもちゃんと面倒くさそうにゆっくり立ち上がってこちらに歩いてきた。
かっこいい……というか明らかに整った顔立ちをしてて服装もオシャレなんだけど、あんまりチャラついた雰囲気はない。なんていうかツンツンしてそうな感じ。
影山の隣に来るとポケットに手を突っ込んで、片足に重心をかけるようにして立った。
「えっと、名前なんだっけ?」
ぶっきらぼうな言い方。というか、少し距離を感じる喋り方だった。
……覚くんや貴大さんなんかの態度との差に、必要以上にそう感じてしまったのかもしれない。
女子なのもあるだろうけど、初対面なのに優しく接してくれて距離感も近かったから。
喋る前から嫌われてしまうのは怖いけど、他人の優しさを別の人にも求めるのは違うよね。失礼だし。
それにこの人の距離感の人ぐらい今まで何人もいただろうに。仲良くなってこそ距離感がなくなるわけだし。
「井上七世です。一年です」
「そうだ、井上だ。影山と同級だったっけ?」
「おう」
「俺は二口堅治。二年だけど敬語とか要らないから。呼び方も呼び捨てでいーし」
そう言うと、目の前で座り込んで胡座をかいた。影山も片方の膝を立てるようにして胡座をかく。
この三人で会話するつもり?……続くかな。
「上……?下……?」
「どっちでもいいけど。ま、多数派とって下で」
ここで言う多数派は、私が影山以外のほとんどの人を下の名前で呼んでることを指してるみたいだ。
さん付けなら上も下も呼びやすいんだけど、呼び捨てとなると上も下も呼びにくいな……。研磨って呼んだ時みたいに、さらっと…。
「えっと、堅治?」
「それでいいよ。俺も下で呼んだ方がいいの?」
「あ、じゃあついでで……」
「おけ。七世ね」
この人に呼び捨てにされるのはちょっと不思議な感じがする。喋り方からして途中から、もしかして女があんまり好きじゃないんじゃ……?って思ったけど。
普通に名前呼ばれたし。
もしかして私、相手がかっこいいからってちょっとビビってしまってるのかもしれない。