第1章 #01
この人も、近所の人達も皆知ってるんだ。だから私のためにって優しくしてくれたんだ。
ご近所の縁って、優しくてあったかい分……噂もすぐに広まっちゃうからなあ。
「今日みたいに大勢の子にご飯出すのは難しいけど、七世ちゃんならいつでもご飯食べに来なさいね」
「うん、ありがとう…ございます」
歳をとった女性の放つ言葉の重みというんだろうか……自分のお母さんではないけれど、まるで母親みたく包み込んでくれる雰囲気に目頭が熱くなった。
嬉しくて、でもそれと同時に悲しくて。
さっきまで忘れてたのに、やっぱり思い出すと辛すぎた。……いくら楽しくったって、置かれてる状況に変わりはないんだ。
*
洗車の時間がまだかかるみたいだから、その間に奥さんと一緒にお料理を持ってきてくれたご近所さんにお皿を返しにまわった。
お礼とご飯の感想を言いながら、久しぶりだねなんて言われて昔話を話す。誰も「大変だね」とは言わなかったのは、気をつかってくれてるからなんだろう。
それが今はありがたかった。
山下さんの家に戻ってくると、もう少しゆっくりしていきなさいって言われて、ご飯を食べた部屋で休ませてもらうことになった。
手伝いを終えた数人が既に何人かいたけど、私はナップサックを置いたところの近くに一人で座った。
研磨はいないし影山はいるけど話してる最中。そもそも、一人でいたとしても隣に座りに行くような仲じゃないし。
あの厄介な二人はそろって洗車中らしく、一人でいても変なことされたり話しかけられる心配がないのは嬉しい。スマホでも触ってようかな。
スマホを取り出すと同時に、視線の先に誰かの足元が映りこんだ。
誰……と思ってゆっくり視線をあげると、途中で服装でわかったけど影山だった。私の顔を真っ直ぐ見下ろしている。
「隣いいか?」
「……いいけど。あの人はいいの?」
ほら、いつも一緒のかっこいい人。さっきまで喋ってたじゃん。
こっちを向いてちょっと理解出来てない表情をしているあたり、たぶん何も言わずに急に影山がこっちに来たのかもしれない。
友達より私優先させる?普通。そんなに仲良くないでしょう。
「ああ。二口、お前も来いよ」
「ん…めんど」
このかっこいい人は二口さんって名前らしい。影山のずれた言い方に少し顔をゆがめながらため息を吐いた。