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【HQ】ひと夏の幻影【R18】

第1章 #01


作った料理を美味しそうにこんな風に食べて貰えるのが嬉しいみたいで、奥さんは山下さんの肩を叩くと「ほら」と見せて笑った。


「めちゃくちゃ美味しいっス!」

「ホントに!」


最後にはひとつの料理も残らないで、完食した。あんなに沢山あったのに凄い……。

私もおなかいっぱい食べる事が出来たし、研磨も顔が緩んで口角が少し上がっていた。


食後は全員でお皿を台所に運んでテーブルを拭いたり座布団を戻したり。それからお礼ついでに、いくつか山下さんを手伝うことになった。

軽トラを洗車するのと、食べた部屋の掃除機がけ、日陰になってるうちに庭の草むしりなど等。

私は女子ということで奥さんと二人で食器を洗うことになった。


「七世ちゃんの二つ隣にいた黒髪の子が、知り合いの子?」

「そうです、あとは本当知り合ったばかりで……」

「かっこいい子ばかりだったわね。どの子が好みかしら?」

「いや好みとかは別に……。数人絶対嫌なのとかはいますけど」

「そうなの?」


何故か女子トークみたいなものを繰り広げながら、洗い物を進めていく。影山が知り合いということは、山下さんが教えていたみたい。

じゃなければ研磨が知り合いだと思うに違いないし。

わざと話題を変えて、お料理を分けてくれたご近所さんの名前を聞いたり、山下さんに釣りを教えてもらった話をしたりした。

そういう目で見てないし、話に全然乗り気になれないからなあ……。


「よかったらお皿、預けて貰えませんか?お礼ついでに返してまわってきます」

「それなら私も一緒に行くわ」

「何から何までお世話になります、本当……」


しばらく黙々とお皿を洗い続ける。最後の一枚から洗剤を流し終えた時、緊張したような出だしで奥さんは言った。


「七世ちゃんがいたから、皆こんなに親切にしてくれたのよ?海で出会った子を家に連れてきてご飯を食べさせるなんて、普通ならしないからね」


優しい言い方で、特別な事なんだよ?と言われているような気がした。優しい瞳だけど、少し困ったような情けをかけるようなそんな表情をしていた。

だから奥さんの言う“私がいたから”っていうのは、顔見知りの私がいたからってことを単に指してるわけじゃないんだって察しがついた。
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