第1章 #01
*
散歩を終えて……というか研磨の希望で早めに切り上げて部屋に戻ると、騒がしかった面々が揃ってこっちに視線を向けた。
「あ、戻ってきた」
「何してたん?」
研磨への質問ととって私はスルーして、ナップサックの中からお茶やタオルなんかを取り出す。
ところが研磨もスルーして質問は流れた。まあいっか、って感じでまたそれぞれは喋りだした。
普通の雰囲気な感じで戻ってこれてよかった。あえてあの二人には視線を向けないままでいよう。
「影山、そこ替わってくれない?」
「え……いいけど」
研磨が私のところと影山のところを替えるように頼んでくれて、私は研磨とかっこいい人の間に挟まれるように座った。
なにこの空間……全然さっきまでの嫌な感じがしないんだけど……。
「ありがと研磨」
「…別に」
「ハァ〜?何で影山が来るワケ、七世ちゃんは?」
「いや俺に言われても」
元の場所から影山に文句を言う覚くんの声が聞こえるけど、今はとにかく無視だ。
期待はしないけどなんで影山がそこに行ったのかよく考えてみてください。
座ってから歩いた疲れが落ち着いた頃、研磨が視線を私の方に向ける。首元に軽くにじんだ汗をシャツで拭って、そのまま同じ腕で頬杖を着いた。
「疲れた」
わざとらしく研磨はそう言った。
「お疲れ様!それなりに歩いたもんね」
「そうじゃなくて……。時間あるからって外に出るとか有り得ないんだけど」
「でも一緒に来てくれたでしょ…?」
「たぶんこの先、一生ないけど」
思ってたよりも時間が長かったのか暑かったのか、少しだけ不機嫌そうだった。と言ってもわざとらしく言うあたり、不機嫌なこと自体を研磨が楽しんでいるようにも見えた。
楽しくなかった?と聞けば、別につまらなくはないけどって返してくれる。
年上だけどなんだかちょっと可愛いなと思ってしまった。
それからすぐ山下さんと奥さんが料理を運んできてくれた。皆で手伝いながら配膳をして、私はコップにお茶を入れてまわる。
お刺身に焼魚、汁物まで……めちゃくちゃ豪華!白ご飯が進むやつだ絶対。
運びながら皆も目を輝かせていて、早く食べたそうにそわそわとしていた。改めて山下さんと奥さんが二人でこんなに作ってくれたのだと思うと、凄いなと驚かざるを得ない。