第1章 #01
台所に手伝いに行くと言うと、研磨は少し考え込んだ。
「……?」
「俺もクロ睨みつけて出てきたし、すぐ戻ったら絶対また調子に乗るから」
どうやら、研磨が部屋に戻るタイミングに迷ってるみたいだった。
自分がした失敗がすぐ解決するようなことだったら、あんまり反省するべきことでもなかったって楽観視しちゃう、ってことを言ってるんだろう。
そこまで考えてるって、もはや研磨はあの人の親なの……?
「手伝い一緒に行く?」
「料理はそんなに」
なるほど。一緒に手伝いに行く選択肢はないとして……。
一応他人の家だし指定された部屋以外でだらだら喋ってたり座ってたりするのも、さすがに失礼すぎるからなあ。
「来て」
「え?」
手招きする私に戸惑う研磨。どういうこと、と研磨が首を傾げると金髪なのにサラサラした髪が揺れた。
私は少し緊張しながらも細い研磨の手首を握って、少し大股気味に台所の方に歩いた。
「ちょ……」
戸惑いながら私に手を引かれる研磨。台所で止まると、予期してなかったらしく私の背中に研磨の体が軽くぶつかった。
まだ魚を捌く前らしく、二人でテキパキと準備を進めている。山下さんと奥さんの視線が向く前に、そっと研磨の腕を掴んだ手を離した。
「おー、七世ちゃんどうした?」
「お料理ってどれくらいかかりますか?」
「んー……二、三十分てところかなあ」
「ちょっとしばらく外行ってきますね、他の人はいるので!」
「わかったよ、時間見て戻ってきなねえ」
「うん!……研磨行こ」
小さい声でそう言って笑いかけると、戸惑いながら研磨は頷いた。
次は私が手を引かなくても自然と後を着いてくる。さっきは何も説明せずに強引に引っ張ってしまってただけなんだけどね。
玄関で靴を履きながら、研磨が口を開く。
「どこ行くの?」
「散歩してこよ」
どうせだから、家から出た方が気分も変わって楽しいに決まってる。二、三十分あれば海にも行けるけど戻ってきたばかりで行くのもあんまり、って感じだ。
玄関の戸を開けば、いっそう蝉の音が大きく聞こえた。
「ええ……」
「嫌がらないで。行こ!」
溜息をつきながらも後に続いて研磨も外に出る。なるべく日陰がありそうなところを選んで歩こう。
スマホで時間を確認してから歩き出した。