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【HQ】ひと夏の幻影【R18】

第1章 #01


覚くんとこの男が近くにいる状態が嫌で、私はゆっくり立ち上がった。席替えて欲しいなんて大胆なことは、このメンバーじゃ出来ない。

あえて不機嫌になりかけた表情は隠さない。


「あれ、どーしたの?」

「鉄朗くんのひとことマズかったんでしょ〜」


二人ともだわ……!

二人に言葉を返すことなく部屋から出ていく。台所に手伝いに行こう。

他と違って私は顔見知りだし、実際行ってしまえば追い返さず何かしらは手伝わせてくれるだろう。量も多いし。

しかし部屋を出てすぐ後ろから襖を開け閉めする音が聞こえて、誰かが追ってきたのがわかった。それが望まない人ではないことを祈って振り返る。


「研磨…」

「アイツらがごめん。後で厳しく言っとく」


涼し気な表情に少し怒りをみせている。あの人達の近くにいて何でこんなに研磨はいい人なんだろう。

私は台所に向かう足を止めた。さっきいた部屋には聞こえないように喋る。


「研磨が謝ることじゃないよ」

「でもクロたち普段からあんなだから絶対謝らない。謝ることだってわかってない。嫌な思いさせて、ごめんね」

「……いいよ。謝られたいほど怒ってるわけじゃないし、研磨にそう言われたらいつまでも機嫌悪くしてるわけにいかないでしょ?」

「いや別に…」


そうだよ、あれぐらいでめちゃくちゃ怒ってるわけじゃない。ちょっとイラッとして出てきてしまっただけ。

あっちが悪くないといえばそれは違うけど。うん、私が悪いとは思わないよさっきの流れに至っては絶対。

それでも関係ない研磨が心配そうな表情を見せて謝ってくれた時点で、いつまでも引きずってイライラしてるのは研磨に悪い。

というか海の時もそうだけど、研磨が厳しく言っとくって言ってくれた時に自然と心が落ち着いた。逆に感謝しなくちゃいけないくらいだ。


「ありがとう。研磨っていい人だね」

「……そんなことないと思う」


言われ慣れてないらしく、“いい人”という言葉に研磨は照れくさそうに視線をそらした。


「場所替わってもいいかな?」

「いいでしょ。皆替わってくれるよ、俺の隣、来る?」

「いいの?」


研磨は当たり前と頷いてくれた。やっぱりいい人だ。

すぐ戻る?って聞かれたけど、まだ戻りたいとは思えない。あ、戻ってきた……みたいな視線とか嫌だし。
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