第1章 #01
「まあネ!嫌がられるのも仕方ないかな〜!」
覚くんの笑顔はどこか優越感に浸っていて、嫌われることも特別というふうな言い方をしていた。
分かっててなんで楽しそうなの本当。もう少しくらい紳士っぽい対応してくれてもいいと思うんだけど…?
何かあったことをわざわざ匂わせるような物言いはやめてくれないかと思った。短い時間ではあるけど覚くんといる時の経験上、彼が私の胸元を見た事を喋らないとも限らないし。
いや、というか絶対言う……!
「サトリなんでそんな機嫌いいの?嫌がられてんでしょ?」
「鉄朗くんもネ。実はさっき、ちょっとしたラッキースケベがあってさ!」
「覚くん……!」
予期してた、予期してたよ言われるの…!でもいざ言おうとしてるの止めるとなると方法が思い浮かばなかったんだよ……!
この場で「あああああ」とか言って被せて誤魔化すのもヤバい奴認定されそうだし、止めても最後まで言い切りそうだし、かと言って横腹に打撃を入れるなんて出来るわけもない……。
最後の最後に言わないことに賭けた私が馬鹿だった。
覚くんの言葉を境に、それぞれ話してワイワイしていた部屋が一気に静まる。
声でかすぎるんだよ……!
視線が覚くんだけじゃなくて私にも向いてるのがわかって、恥ずかしすぎてどこを向けばいいのかわからない。
うつむきながら終わった……と心の中で嘆く。
ていうかラッキースケベって表現……、もうやだ。
「え、ナニ、どこまでシたの」
「な、何言って……!」
「別に〜、屈んでたからシャツの隙間からおっぱいの谷間とか見えただけだよ?」
この男、本当に全部言った……。もう恥ずかしくて耐えられない。
やっぱり思考回路のおかしい正面の男の質問にジワジワ怒りが沸きながらも、それを気にさせないほど覚くんが話してしまったことが恥ずかしい。
もはや知り合ったばかりの人達の中で恥ずかしがってる私が恥ずかしいくらいだった。
するとまた悪い意味で裏切らない男が、信じられない言葉を放つ。
「なんだ、そんだけかよ」
研磨の幼馴染はつまんねえ、と息を吐いた。
いやいやいや、なに言ってるの……?私からすればそれだけでも問題なんですが。貴方のゆるゆるな女関係と比べてそんだけなんて言われたくないんだけど?