第1章 #01
夏休み初日。とある県の海岸にて……。
太陽を反射して煌めく海の水平線をぼーっと眺めていると、左側から聞こえたのは、驚きに思わず漏れたような声だった。
「え…」
「ん、影山?」
振り向いてすぐ、私は疑問で顔を歪める。
知り合いだった。お互いどうしてこんな所で会うのか、偶然すぎて頭の整理がつかない。
七分丈のデニムと黒の半袖Tシャツを持ち前の高身長でスラッと着こなす彼の姿を見て、私服を見るのはいつぶりだろうかとも思った。
中学までは同じ学校だったけど、中学時代から思えばそんなに話さない仲になっていたような気がする。
「おまっ、何でこんなとこにいんだよ」
私たちが同じ中学に通っていたのは別の県での話だ。間違ってなければお互いに引越しもしていないし。
高一の夏休み初日に特別有名でも無い他県の海岸で知り合いに出会う確率なんて、恐らくそんなに高くないよね。
襟足の汗をシャツの襟で拭いながら、影山がこちらに歩いて来た。
ずっと喋ってなかったのもあって、こっち来るんだ……?という驚きで体が少し固まった。特に影山って女子と率先して話すタイプじゃないし。
まあこんな変なところで会えばそれも変わってくるか。
「おばあちゃん家がここの近くなんだよ」
「へえ。じゃあ一人か?」
「うん」
友達と来てないのか?という意図を汲んで頷く。
私から50センチほど距離を取って、影山はドカっとあぐらをかいて座り込む。ふわっと、彼の香りが一瞬香ってきた。
久しぶりに会うから目を見て話しづらくて、私はまた水平線の方に視線を移した。それにしてもやっぱり、影山とふたりで並んで座るの変な感じだ……。
「影山は友達と?」
「おう。まあそんなもんだ」
「こんな遠くまでね。旅でもしてんの?」
「よく分かったな」
よく分かったというか。
こんな所に来る理由なんて冷静に考えれば選択肢は少なかったし。まともな選択肢だけならすぐに分かると思うけどね。
こういうところも勉強の馬鹿さと繋がってるのかな?
「……友達は?」
十秒ほどの沈黙を私が破る。影山は立ち上がる素振りもなく、かといって友達らしき人がここに来る様子もまだない。
下にいるよと浜辺の方を指さす影山に視線を移すと、本当にいつぶりか、それなりに至近距離で目が合った。