第1章 #01
「釣り?」
「釣り」
「連れたのか?」
「2匹、ちっちゃいけどね」
「へえ」
色のない声で答える影山に、自分が聞いたんだからもっと感情出したら?なんて思って視線をぶつけると、意外にも彼の顔は笑顔だった。
……。
感情出したらとは思ったけど、そんなに喜んだ顔してるのは聞いてない。
「何でそんな嬉しそうなの?食べたいの?」
「い、いや……!」
自分の表情に気づいてなかったみたいで、影山は慌ててサッと顔を逸らしてしまった。そんなに恥ずかしがらなくても……。
成長期のましてやそんな高身長の影山が食欲みせたところで、誰もおかしいなんて思わないし馬鹿にもしないから。
って思ってたら、くすくす小さな笑いが後ろの方で聞こえてきて、影山はお前ら黙れ!と怒りながら友達に噛み付いていた。男友達は馬鹿にするんだね。
「後でお魚貰っていいか聞こうか?」
「っ……、いい!!!」
どうやら更に後ろの友達の笑いを誘ったようで、影山は鬼の形相で私を睨みつけた。って言っても小鬼みたいなもんだけど。
小声で誰かが、そうじゃなくてって言った気がしたけど、そうじゃなくてとは……?
「おっ、と!」
「釣れましたか!」
山下さんが魚を釣り上げると全員の視線が山下さんに向く。おお!とか拍手とかあって、何だか山下さんも嬉しそうに笑ってる。
こういうノリの良さというか盛り上げ上手な所は、男子のいいところだよなあと思う。
雑談から釣りの方に意識が向いたみたいで、何人かは山下さんの方に近寄って話しかけ始めた。数人は私の方に来るけど、詳しくないから説明はもちろんできない。
影山は変わらず私の隣に座ったままだった。
「えっと、七世ちゃんだっけ」
「……!」
影山の反対側の耳元で声がすると思ったら、ドサッと肩を組まれてた。ビックリして固まってしまう。
たくましい筋肉と色っぽい声を持ち合わせてるのは、一番最初にここに来た黒髪の大きな男の人のようだった。
男の人と、すごい密着してるんですが。だ、誰か。
彼氏がいた経験がない訳では無いけど、初対面の男の人の過度なボディータッチに適応できるほど男好きな訳でもない。
と、というか私の左腕がこの人の腹筋と密着してるのはいいとして……このひとの右腕、肩組みながら私の胸にかすってるんですが。