第16章 元通りの日常
その後も、以前と変わりなく団長と兵長の執務室を交代で行き来していた。
書類仕事を終えると、紅茶を用意し、ほんの30分程世間話をし、居室へ帰る。
その事については、兵団の兵士達も知るところとなった。
最初は副官でも無い癖に図々しい、どうせ夜も相手をしてるんだろう、などと興味本位で陰口を叩かれていた。
だが、団長がさりげなく皆に私の業務実績なんかを褒めて回ってくれたお陰で、すぐにそんな話は消えていった。
時折夜会が催され、団長や兵長は留守にすることがあった。
そういう日は私は特に用も無いので、談話室で本を読んだりして過ごしていた。
クスリの件の犯人は捕まっていなかったが、まぁ憲兵がロクに探しもしてないだろうことは想像がつき、私もそのこと自体を思い出すことはなかった。
ある日、兵団全体に集合がかかった。
この時期は中途編入があるからだ。
今回は憲兵から一人、駐屯兵から二人が調査兵団へ編入したらしい。
駐屯兵からの編入はたまに聞く話だが、憲兵からは珍しかった。
「憲兵団出身、フロイド=ローゼスです」
ローゼス…
レイドには確か兄がいて憲兵と言っていたけど、もしかして彼がレイドの兄なのか。
「もしかして、きみがエマ=ライトニングさん?」
解散した後すぐに話しかけられた。
あぁ、この人当たりの良い笑顔は懐かしい。
レイドの面影が少しある。レイドより少し目が鋭い印象だが、レイドが戻ってきてくれたような、不思議な感覚になった。