第32章 ●欲望●
部屋の端と端に設置されたベッドにお互い座っていたが、兵長が私の隣に座って来た。
「久しぶりだな」
「…そうですね。こうして二人で話すのは旧本部に居た時以来ですかね…」
私はやはり団長に抱かれた後ろめたさから、兵長が距離を詰めてきてもそれに応えられなかった。
このまま、団長に最後に抱かれたことを兵長に言わずにやり過ごせないだろうか…。
団長から兵長には言わないだろう。
多分…
その方が兵長だって怒らせないで済むし、私一人が墓場まで持っていけば…
「どうした。エルヴィンに会って話す時間は充分あっただろう。
俺がどれだけ待ってやったと思ってる」
…いや、ダメだ。
兵長が私に向き合ってくれたように私も自分自身と兵長に向き合わないと…
「あの…私、兵長に言わないといけないことが…」
「あぁ?」
明らかに不機嫌そうに聞き返す兵長。
私の身体は情けなくも小刻みに震えだした。
「あの…団長とは、もう元通りと言うか…、
もう、その…終わりにと話をしてきたんですけど…。
…最期に団長と……」
兵長の目を見れずに告白をする。
隣に座っている兵長から殺気が溢れてるのを感じる。
背筋が凍るようだ。
考えが甘かった。
殺されるかもしれない。
拒否されるかもとかそんなどころじゃない。
「…兵長…、すみまっ……ぐっ…!」
言い訳も無くただ謝ろうと口を開いたが、それは最後まで言わせてもらえなかった。
兵長は私の胸ぐらを掴み、馬乗りになって絞め上げてきた。
「……ぐっ……、がっ……」
「…そうか…。俺はまたエルヴィンに出し抜かれたんだな。
そして俺がお前を大人しく待っている間、お前はエルヴィンとよろしくやってたってことだ」
首が締まり、鼻水と涎がと涙、水分がだらしなく溢れた。
もうあと少しで意識が飛ぶ、というところで兵長は手を離した。