第21章 壁外調査とトロスト区
抱き締められていた腕がそっと解かれ、身体と身体に少し距離ができ、お互い見つめ合うような形になった。
「まぁ、壁外調査前に後悔しないように伝えておきたかったんだ。私も散々人の心が無いとか言われているが、人並に恋愛感情くらい持ち合わせてるということだよ」
と、冗談めかせ少しはにかんで笑ってみせた。
「とはいえ、私には人類を巨人から救う責任があるし明日もわからない身だ。君の事を縛るつもりもない。
ただ伝えたいという自己満足だ。すまないな」
団長は誰よりも個を捨て公に心臓を捧げた人だと思っていた。
この人は個を捨てたのではなくきっと必死に個に蓋をして生きてきたんじゃないだろうか。
「…団長、ありがとうございます。私はエルヴィン団長のことを上官としてとても尊敬しています。今回待機なのはとても残念で悔しいですが、団長と皆の帰還を待っています」
「上官としてか。いや、それでいい。まぁ待機と言っても援護班に行ってもらうだけだがな。君が援護してくれるなら俺は安心して前に進める」
もう一度ぎゅっと抱きしめられた。
逞しい腕、厚い胸板…大人の男性の包容力というのか…とても心地よく安心出来た。
「団長と皆さんの援護と、留守をしっかりと守ります。
安心して行ってきてください。そして帰ってきてくださいね」
そうして今回私は壁外調査へは参加せず、皆を見送ることとなった。