第9章 自我なきゴブリン族
先程の魔法で、手が火傷を追ってしまったようだ。
「回復するよ」
チョロ松が回復魔法を施す。
「ありがと…」
「大丈夫っすか?」
「ああ」
ファイアーストームのおかげでゴブリンたちの数が減った。それでも多いが。
「やっぱ狭いわ、ここ」
みんなを下ろしたおそ松がぼやく。
「カラ松兄さん」
「何だ、十四松」
「カラ松兄さんは優しいから、倒すのは辛いかも知れない。でもね、倒さないと、救われないんだよ。おそ松兄さんのお母さんも、僕たちも、ゴブリンたちも」
十四松が矢を放ちながらカラ松を説得する。
「………。分かっている!分かっているんだ!!だが……っ!!」
「さっさとやれ、クソ松!!」
襲いかかるゴブリンたち。
「ぐあっ!!」
そうこうしているうち、おそ松が攻撃を受けた。
「いいか、クソ松。悩むのは勝手だ。だがお前が躊躇することで、俺たちの命が危険にさらされることを忘れんな!」
「みんな!!……………くっ!…………ゴブリンたち……っ!!許せ!」
ついにカラ松が目を開いた。前に言った通り、ほぼ一瞬で骨も残らず消えるゴブリンたち。
「おおっ!すげぇ!!」
「僕も!」
十四松の矢に、チョロ松の剣さばきに、一松の矢に次々と倒れる。しばらくするとあれだけいたゴブリンたちが、あっという間に数えるほどになった。それでも恐れをなすことなく向かってくる。
「くっそぉ!ここを出たら俺に、剣を教えてくれ!このままじゃ、足手まといになっちゃうから!」
「おそ松、俺が教えるよ」
名乗りを上げたのは、チョロ松だった。
「サンキュ!」
やがてようやく襲いかかってきたゴブリンたちがいなくなり、おそ松たちの目の前には倒れたゴブリンの亡骸があった。
「……すまない。……すまない」
カラ松はその亡骸に謝罪していた。
「お前、優しすぎ。その優しさが命取りになるってこと、忘れんな?」
「時には非情になることも大切なんだ」
「辛いのはお前だけじゃない」
「僕らも覚悟して、戦ってるんだ」
仲間たちに諭され、カラ松は涙を拭った。
「……そうだな。相手も俺たちも、覚悟して戦ってるんだったな。分かったぜ、ブラザー。もう迷わない」
「おっ!その顔、いいね!戦う男の顔だ」
おそ松はカラ松の肩を抱いた。
「よーし。今度街に着いたら、飲もうぜ!」