第8章 夏の華 ―ハイジside―
『ありがとうございます、信じてくれて。
出たいです、箱根駅伝に。この10人で。
本気ですから。これからは本気で目指しますから!』
アオタケに来た頃。
いつも先頭を走っていたカケルは、次第に最後尾を走る王子を気にかけるようになった。
個人の記録を伸ばすことより、チームが目指すべき目標を優先できるようにもなった。
カケルは確実に変わってきている。
はっきり言って、陸上以外のことには恐ろしく疎い奴だ。
それは自分自身に関しても例外ではない。
だったら俺たちが見ていてやる。
自分で自分のことに気づけないのなら、俺たちがちゃんとカケルを見守って、支えるから。
液晶画面を見つめるカケルの瞳は真剣そのもの。
『出たいです、箱根駅伝に。この10人で』
今までカケルが手を抜いて走ったことなど一度もない。
けれど心に迷いを抱えていたからこそ、決意できずにいた目標だったに違いない。
箱根駅伝は今日初めて、10人の夢になった。
何だか皮肉なものだな。
恋が打ち止めになった代わりに、夢への道は前進しているだなんて。
不思議と清々しい気分だ。
藤岡の走りを食い入るように見ているカケルの姿に、俺も明日への英気が養われる。
また、ここからだ。
一緒に走り出そう、カケル。