第8章 夏の華 ―ハイジside―
「ハイジさーん!もう来れるー?」
ハナちゃんがウッドデッキから室内を覗き込む。
「今行くよ」
今日の練習を記したノートを閉じ、夏風漂うコテージの外へ出る。
「早く早くっ!」
持っていた花火を2本俺に手渡してはしゃぐハナちゃん。
昨日とは打って変わって星空が広がる穏やかな夜だ。
「よっしゃ、花火大会始めるよー!勝田さん、ハナちゃん、舞ねーちゃん、3日間ありがとう!」
「点火ーっ!!」
打ち上げ花火に火を付けた双子がこちらに向かって走ってくる。
間もなく空に舞う、橙の火花。
多摩川の花火大会のような大輪ではない。
けれどハードな日々の合間のささやかな夏の情景は、心にひと時の安らぎをもたらす。
舞ちゃんたちは明日、東京へ帰る。
残りの3日間はまた、俺たちだけで頑張らなければ。
それぞれが手持ち花火に火を付け、勝田家の三人と過ごす最後の夜を楽しむ。
一日中走っている証のように、みんなこの4日でだいぶ日に焼けた。(あ、ユキと王子はそうでもないか)
ともかく、一人一人自信がついてきたような顔。
改めて思う。
本当にいいメンバーに恵まれた。
この10人は、運命の10人だ。
「ハイジ、まだ残ってるぞ。やんねーの?」
「みんなが楽しんでるところを見てた」
「ジジくせぇ奴」
「侘び寂びに浸っていただけだ」
輪から離れた場所でユキと二人、闇を照らす花火を眺める。
「なあ、ハイジ。単刀直入に聞くけど」
「何だ?」
唇を開いた後、思いとどまったように一瞬息を飲み込むが、ユキは静かに続ける。
「舞のこと、好きか?」
何をどう繕っても、ユキにはお見通しだろう。
「ああ。好きだ」
レンズの向こうの瞳が僅かに丸くなった。
「いや、仲間として…とかじゃねーぞ?」
「わかってる。ユキと同じ意味の "好き" だよ」
「…マジか。ハイジにも恋愛感情ってもんがあったとは…」
「俺を何だと思ってる」
「そうだろうな、とは思ってたけどさ、いざ本人の口から聞くと、なんつーか…」
「可愛いよな、舞ちゃん」
「……」
「心配するな。だからといって何もない」
「え?」
「俺の中での今の一番は、走ること。舞ちゃんは二番目だ」