第4章 焦燥
「今日、応援ありがとな」
「ううん。みんなかっこよかった」
「舞の声、聞こえた」
「あんなに遠くから?」
「ああ。一生懸命何か叫んでくれてるの見て、すんげぇ力になったよ」
ユキくんの、切れ長で綺麗な猫みたいな瞳とぶつかった。
弱いんだよなぁ、この目。
真っ直ぐに見つめられると、正直ドキドキしてしまう。
「何か顔赤くね?」
「…っ!」
ユキくんは私の頬に、手の甲をピタッとくっつける。
「熱っ。もう酔った?」
だ…っ、誰のせいで赤面してると思ってるの!?
こんな…顔に触れるなんて…!
意識してるの私だけ?
ユキくんにとっては何でもないことなの?
綿あめみたいに、徐々にふわふわ大きく膨らんでいく感情。
たぶん私のこの気持ちは―――。
いいのかな、このまま惹かれてしまっても。
落ちるところまで、落ちてしまっても。
みんなそれぞれ酔いも回り、話に花を咲かせている。
この部屋の中は確かに騒がしいのに、私たちの間にだけシンとした沈黙が流れた。
「今日、ゴールしたあと…」
先に口を切ったのは、ユキくん。
「うん?」
「ハイジに…されただろ?」
「何?」
「だから。ハイジ。舞のこと…抱き締めてた、じゃん?」
私から目を逸らしてそう呟いたあと、眼鏡をクイッと上げる。
やだ、見られてたの…?
違うのに。全然そういうんじゃなくて…。
「やっぱ舞とハイジって…」