第4章 焦燥
「誰かっ…!誰か来てください!」
ユキくんの言葉を切り裂く切羽詰まった声が響く。
部屋のドアをカケルくんが勢い良く開け放したのだ。
「どうした!?」
「ハイジさんが倒れたんです!」
「はぁ!?」
ユキくんが部屋を飛び出して、カケルくんと階段を降りていく。
倒れた―――?
昨日、様子がおかしかったハイジくん。
記憶の中の力ない笑顔が思い出されて、私も急いで台所へ向かう。
床に転がったフライパン、散乱した作りかけの炒飯。
そしてコンロの脇には、壁にもたれ掛かるようにして倒れたハイジくんが…。
「おいっ、ハイジ!」
「救急車呼びますか!?」
後から降りてきたみんなも騒然とする。
「ハイジさん!ハイジさんっ!」
「カケル、念のため動かすな。とりあえず呼吸は乱れてないし脈もしっかりある。貧血か…?誰か、永田先生に電話して」
「あ、私が…!」
ユキくんに言われたとおり、近所の診療所の先生に電話をしてみる。
状況を説明すると、すぐに往診にきてくれることになった。
―――……
「……過労」
自室に運ばれたハイジくん。
彼の胸元から聴診器を浮かせたあと、先生の口からはそう告げられた。
「貧血を起こしたようだが、これは気絶じゃない。寝とる」
寝てる……?
確かに、すやすや眠っているようにも見える。
体から力が抜け落ちていく感覚がした。
「何だよ、驚かせやがって…」
「良かったじゃないですか。大変な病気じゃなくて」
みんなの空気も、一気に安堵の色へと変わった。
わざわざ足を運んでくれた先生にお礼を言い、手分けして片付けをする。
「考えてみりゃあ、大会のエントリーとか事務的な手続き…全部ハイジの仕事になってたもんなぁ…」
「監督兼コーチ兼マネージャー兼寮長…か」
「せめてご飯は当番制にするか」
みんなの口からこぼれるのは、ハイジくんに負担をかけていたことを悔やむ声。
片付けが済んだあと、様子を見にハイジくんの部屋を覗く。
畳の上に座り間近で安否を確認すると、そこからは規則正しい寝息が聞こえてきた。
異常はなさそうで、ひとまず安心だ。
「夜遅くに男の部屋入るもんじゃねぇぞ?」
背後から届いたのは、いつもの調子のユキくんの軽口。
でもそれに反応もできないくらい、今、私は自己嫌悪に陥っている。