第4章 焦燥
カケルくんも、ニコチャン先輩も。
みんなを纏めるハイジくんのことも、何だか心配になってきた。
「そんな暗い顔すんなって。そもそも素人軍団が箱根駅伝に出ようってとこから無謀な挑戦なんだから。簡単にはいかねぇことくらい、想定内」
「うん」
ユキくんはすごいな。
いつもはすぐ感情的になるけど(主にジョータくんとジョージくんに)、肝心な時にはどっしり構えてて。
現状を理性的に分析して、自分のことも周りのこともしっかり見えている。
「ユキくんも、お願いだから無理だけはしないでね」
「……おう」
ユキくんの手が、ポンと頭に触れた。
「……」
「……」
「やっぱりユキくんチャラくない?」
「やっぱりってなんだよ!」
「こんな…頭ポン、とか。あと合コンのノリを見る限りそうかなって」
「まだそのネタ引っ張るか!仮にチャラく見えてたとしても、好きな女には一途ですから、俺」
「……そうなんだ」
「そうだよ」
好きな女―――。
ユキくんとは大学も違うし、アオタケメンバー以外の交友関係も詳しく知らない。
そういう人、いるのかな。
あんまり考えたくない。
「そろそろ行かなきゃ…」
「バイト?」
「うん。練習がんばってね」
「……なあ、舞」
「ん?」
背を向けた私を、ユキくんが引き止める。
「次の記録会済んだら、どっか行かね?」
「え?」
「いっつも走ってるからさ、何か気晴らししたいっていうか…」
なんだか照れくさそうに地に視線を落としてそう言うユキくんに、鼓動が速くなる。
二人で出掛けるなんて。
それって……
「うん…」
「…ほんと?」
「うん、ほんと。どこ行く?」
「もうすぐ梅雨入りだからなぁ。室内のが…プラネタリウムとかどう?」
「わ、素敵。いいね」
毎日練習で何十kmもの距離を走っているユキくん。
その狭間の時間を休息に使うわけでもなく、私と過ごしたいと思ってくれただけで今は嬉しい。
プラネタリウム、何を着ていこうかな。
直に雨の季節がやってくるというのに、私の心にはまた春の花が咲き始めた。