第4章 焦燥
翌日の夕方。
ユキくんから連絡があった。
第一回目の記録会。
公認記録を出したのは、ハイジくんとカケルくんの二人だけ。
練習と本番ではまるで違ったらしい。
コースの取り方に戸惑ったり、集団のペースに飲まれてしまったり。
薄々思ってはいたけれど、やっぱり簡単にはいかないものだ。
落ち込んでるのかと思いきや、ユキくんの声は案外いつもと変わらなかった。
それにはホッとしたものの、心配なメンバーが二人いる、と。
カケルくんと、ニコチャン先輩だ。
「何かなぁ、イライラしてるっていうか。焦ってるっていうか」
「カケルくん?」
「ああ。あいつさ、すげぇ選手だったらしいんだよ。この前も一年生にして三位。だから悠長なこと言ってる俺たちが、もどかしいんだと思う。カケルの立場考えたらその気持ちもわかるんだけどな」
記録会から一週間。
ここのところ、連日のバイトで夕方の練習には参加できていない。
私とユキくんは、缶コーヒー片手に近所の公園のベンチで話し込む。
「それ、葉菜子も言ってた。最近のカケルくん、タイムが縮まらなくて焦ってるみたいだって…」
「メンタル的なことだしな。カケルは陸上経験者のハイジに任せるしかねぇかな」
「うん…。それで先輩は?どうかしたの?」
「本気で走ろうとしてる」
「ん?ダメなの?」
「ダメじゃねぇよ。ダメじゃねぇけど、ほら、先輩ゴツいだろ?骨格もだけど、筋肉の量がさ」
確かに。先輩は背も高いし、ガッチリした体つきだ。
「先輩の体格は長距離には不向きなんだよ」
「あ…」
「それをこの前の記録会でまざまざと感じたらしくて。飯、あんま食ってない気がすんだよな…。顔色も良くないし、もしかして昼飯抜いたりしてるんじゃないかと思って」
「無理な減量ってこと?」
「そういうこと」
何だか、今まで潜んでいた問題が次々に浮き彫りになっていくみたい。
「ヘビースモーカーだったあの人が走り始めてから禁煙もして。加えて減量だろ?どんどん自分を追い込んでる感じで危険だと思う」
「そんな…」
「まあ、朝晩はアオタケで食ってるからな。俺もそれとなく先輩の食事量チェックしてみる」
「うん…」