第4章 焦燥
「ユキくん? "矢印" って…」
そこまで考えて、見当がついた。
「ちがっ、違います!」
「違うの?」
「そんなんじゃ…。ユキくんは、お友達…です」
「へぇ。まあ舞ちゃんがそう言うんなら、お友達なのかもな?」
「何か言い方やらしい…!」
先輩は年上だけあって、いつも私や葉菜子のことも気にかけてくれる。
マイペースだけどみんなのことをよく見ていて、頼りになる。
……けど。こうやってからかってくることも、しばしば。
「じゃあ私帰りますね。しっかり休んで…」
「舞!」
背後から名前を呼ばれる。
声の主は、ユキくんだ。
ハイジくんとの話を切り上げたらしく、駆け寄ってくる。
「何帰ろうとしてんの。薄情じゃんか」
「え?だってハイジくんと真剣に話してたから。ねえ先輩?……あれ」
つい今までここにいた先輩は、グラウンドから出ていくところだ。
「なあ、連絡先教えて。結果知らせるから」
「あ、うん」
バッグからスマホを取り出す。
練習のことで連絡を取るときは、いつもハイジくんを通していた。
アオタケの誰かとこうして連絡先を交換するのは、ハイジくん以外では初めて。
「頑張ってね」
「まあ、できる限りでな」
ジョータくんたちみたいに、「任せとけ!」とか言わないところがユキくんらしい。
思わず含み笑いする。
みんなが目指す、箱根への道。
明日は、初めての記録会。