第18章 白銀 ※ ―ユキside―
「何にも変わらなかったよ、4年前と。……変わらずに接してくれたんだろうな。みんなで夕飯食べて、帰ってきた」
「そっかぁ」
大学に入ってからのこと、司法試験のこと、箱根駅伝のこと。
これまでの時間を埋めるように質問攻めにされた。
でも疎ましい気持ちなど全くなく、久しぶりの母さんの手料理を食べながら、自然とそれに答える自分がいた。
旦那さんは温和で優しい人だった。俺たちが話しやすい空気を作ってくれていたように思う。
ほぼ初対面の妹も、人見知りすることなく懐いてくれて。
この歳になって新しくできた家族に、胸がくすぐったいような、温かいような、不思議な気持ちになった。
「母さん、御守りを渡した時の舞のこと覚えてて。その子が俺の彼女だって言ったら、びっくりしてた」
ニコニコ笑って俺の話を聞いていた舞は、驚いた様子で目を丸くする。
「私のこと、話してくれたんだ…」
「うん。会いたがってたよ、舞に」
春からの俺には、忙しない日々が待っている。
家族の元に顔を出せる機会は、きっと少なくなる。
また距離を置いたり避けたりしているのではないか、と邪推されないように。
こっちはこっちで彼女と仲良くやってるから心配するな、という意味も込めて、舞の話をした。
もちろんそれだけではない。
舞は俺にとって特別な存在だから。
大切な家族に、舞のことを知っていてほしいと思ったのだ。
「私も、会ってみたいな。ユキくんの家族」
「今度、家に来いよ。きっと張り切って飯作ると思う。昔からそうなんだ、うちの母親。イベントごとがあると2人じゃ食いきれないくらいの料理作ってさ。それだけならまだしも、菓子作りも好きだからケーキやらクッキーやら…」
興味深そうに相槌を打っていた舞が、ふと口元を綻ばせた。
「…何?」
「ユキくんからお母さんの話聞けるのが、嬉しくて」
伝わってくる。
舞なりに、俺の家の事情を心配してくれていたことが。
母さんと対面したことで尚更思うところもあっただろうに、何も聞かずに見守っていてくれた。
ああ、温かいな―――。
舞といる場所だけは、いつだって、まるで陽だまりみたいだ。