第18章 白銀 ※ ―ユキside―
「駅伝頑張ったご褒美って、本当に旅行でよかったの?」
「ダメだった?旅行」
「そうじゃなくて。だって私も楽しんじゃってるし、いいのかなって…」
「いいに決まってんだろ。二人で楽しめるってことが最高のご褒美なんだから」
「うん。すごく楽しい」
常々、駅伝が終わったら舞と旅行に行きたいと思っていた。
場所は正直どこでも良くて、ただ、舞とずっと一緒にいられる時間が欲しかったのだ。
大学生の俺たちが温泉旅行というのも他人に言わせれば渋いのかもしれない。
卒業旅行を計画している友人たちはこぞって、北海道だ、グアムだ、オーストラリアだと飛行機を利用しなければ行けないような場所をチョイスしていた。
以前の俺ならば、恋人との旅行にわざわざ温泉地を選択することはなかっただろう。
ただ、行き先を決める時にふと舞が呟いたこの土地こそ、二人の初めての旅行先にピッタリだと思った。
箱根の地は、俺たちにとって一生忘れられない特別な場所になったから。
「5区と6区の山道、改めて凄かったねぇ」
「だな。もう一回走れって言われたら無理だわ。しかも熱出してる状況でよくあの山上れたよな、神童の奴」
「ほんとだよね。でも、来年も5区を走りたいって言ってるんでしょ?神童くん」
「ああ。実力を出せないまま終わったことが悔しいってさ」
穏やかな癒し系と見せかけて根性の塊みたいな男だ。
来年こそきっと、神童の走りを貫いてゴールの芦ノ湖に辿り着くに違いない。
その勇姿を拝むのが、今から楽しみだ。
舞が淹れてくれたお茶で体が温まってきた頃。
駅伝の日以降話していなかった、俺の家族のことを切り出した。
きっと舞も、気にかけてくれている。
「この前、母さんに会ってきた」
「……そうなの?」
手に包んでいた湯呑みを静かに置いて、舞は真っ直ぐに俺の瞳と向き合った。