第17章 大手町にて
両手で握った襷を、カケルくんは真っ直ぐに前へと伸ばした。
王子くんから順に繋がれていった襷は、遂に最終走者―――ハイジくんの手に渡る。
襷リレーの瞬間のハイジくんの顔は、何だか柔らかく微笑んでいるように見えた。
『なんと!蔵原走のタイムは1時間08分59秒!区間新記録更新!』
声高に響いてくるアナウンサーの声に、私たちの歓声が重なる。
「やったぁ〜っ!!」
「すげぇ!すげぇよ、カケル!!」
丁度ニコチャン先輩とムサくんも到着し、みんなでカケルくんの健闘を称える。
飛び跳ねて喜んだり涙ぐんでいたり、その反応こそ様々。
けれども、全員が画面越しのチームメイトの勇姿を誇らしげに眺めていた。
現時点での寛政大の総合順位は、12位。
10位をキープしているのは東体大で、シード権獲得のためには東体大の選手より1分02秒早くゴールする必要がある。
「カケルくんが東体大を抜いたから、ハイジくんのほうがゴールに近い位置を走ってるってことだよね。それなのにまだ東体大には及ばないって、混乱する…」
「ああ。仮に東体大よりも後ろを走っていれば、選手の動向がわかって走る指標にもなる。でもそれができない以上、数字だけが頼りだ。できるだけデータを集める」
スマホとパソコンで情報収集し、絶えず動きの変わるレースの中でタイム計算をして、監督へ伝える。
ユキくんと神童くんは、走り終えたあとでも自分の役割がわかっていた。
情報処理に強いこの2人に、タイム計測は任せることにする。
「みんなぁ〜っ!」
私たちの輪に近づいて来たのは、ニラを連れた葉菜子。
箱根初日の早朝から竹青荘には誰もいなくなるため、ニラのお世話はうちの親に任せていた。
ニラは、毎日散歩に連れて行ってくれるハイジくんのことが大好きだ。
きっとそのハイジくんの活躍をニラにも見せようと思い、葉菜子はここまで連れてきたのだろう。
「東体大のペースが落ちてるかもしれません!」
みんながニラとじゃれ合う中、神童くんが流れの変化を知らせた。
ハイジくんが、追い上げてきている。
でも、右脚は―――?