• テキストサイズ

淡雪ふわり【風強・ユキ】

第17章 大手町にて



「すげぇっ!相変わらず化けもんだよ!」

「13番目か…正確な順位がわかんねぇな」

「東京に着いたらタイム計算しましょう。監督にも伝えないと」

箱根駅伝は往路での合計タイムに復路のタイムを加算していくため、見た目の順位と総合順位はイコールではない。
テレビ画面の端にコンスタントに順位は示されるものの、それ以外にも細かなタイム差を知って戦略を立てておきたい。


東京駅に近づいてきた頃、カケルくんは東体大の選手を含めた3人を抜いた。
トップからは10番目の位置をキープして走っている。


ハイジくんはカケルくんのことをこう語っていた。
カケルくんの走った後には、一本の白い光の筋が見えることがあると。まるで流星のように。
煌めいて純粋で、ただただ走ることに没頭しているその姿は、走(カケル) という名が現すとおり、まるで走るために生まれてきたみたいだ。


カケルくんがトップレベルの長距離選手だということは、出会ってすぐにわかった。
けれどカケルくんの走る姿は、ストイックと称すには少し違う、まるで呪縛にでも囚われているような雰囲気さえ醸し出していた。
走るのが好きだという想いに溢れている、ハイジくん。
その一方で、当時のカケルくんには「好き」や「嫌い」では測ることのできない心情があったのかもしれない。


そして、今。


『蔵原に限界はないんでしょうか!終盤でさらに加速するような走りだ!』


出会った頃の彼とは、全く違う。
一人きりで先頭を走っていたカケルくんは、いつしか当然のように最後尾からみんなを見守るようになった。
真剣にチームの一人一人と向き合うその瞳は、私にはどこかハイジくんと重なって見えた。


本当に綺麗だ。
ハイジくんがカケルくんにこだわった理由がわかる。
陸上に魅せられたこの2人が一緒に走れるレースは、恐らくこれから先もう二度とない。
ふとそう気づいてしまい、その事実が私を堪らなく切なくさせた。


カケルくんの襷がハイジくんへ渡る目前、私たちはフィニッシュ地点の大手町に辿り着いた。
タイミング同じくして、カケルくんが鶴見の中継ラインを目指して走る姿が映し出される。


/ 291ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp