第17章 大手町にて
大丈夫だとは思えない。
走っている時はアドレナリンが作用して痛みに鈍感でいられたとしても、走り終えた今はきっとそうはいかない。
少しの靴ずれですら顔をしかめてしまう程度の痛みはあるのだ。
シューズに血が滲むほどの怪我ならば、本当なら横になって休みたいくらい辛いはず。
「あ、東京駅着いたら車椅子借りてこよっか!」
「いらねぇ」
いいことを思いついた、とでも言うように目を輝かせたジョータくんを、ユキくんは一蹴した。
「足、痛むんですよね?」
「痛くねぇ」
「痛いってさっき言ってたじゃーん!」
「言ってねぇよ」
「言ってたって!ねぇ、舞ねーちゃん?」
「うん…」
心配する神童くんとジョータくんが交互に顔色を伺ってみても、ユキくんは断固否定する。
「あ!じゃあニコチャン先輩と合流したら、おんぶしてもらいなよ!」
「どんな罰ゲームだ!」
「いくらなんでも無理だよ、ジョータ。先輩だって7区を走り終えたとこなんだから」
「神童の言うとおりだ。相手は年寄りなんだからもっと気を遣え!お前、そういうとこだぞ!」
ほんとユキくんて、ニコチャン先輩に対して優しいんだか優しくないんだかわからないんだよなぁ……。
昨日は神童くんの件もあり、緊迫した時間が続いていた。
一転、今のみんなのこのやり取りは、まるで普段の練習の時のようで私をホッと和ませてくれる。
「あ、聞いてた?今、カケルくんに襷が渡ったって!」
ああでもない、こうでもないと言い合う3人に、実況の声は届いていなかったらしい。
揃って口を噤み、改めてイヤホンから流れてくる情報に集中し直した。
しばらくは上位校のトップ争いが映し出され、カケルくんの様子はわからない。
「何だよぉ〜、寛政大はお預けかよぉ!」
「房総大と六道大が接戦だからな。そりゃあ、そっちにスポット当たるさ」
「あ、カケルくん映った!」
バイクでの中継車に切り替わり、カケルくんが姿を現した。
『ものすごいスピードです!現在13番目を走っている寛政大の蔵原。何と1kmあたりのタイム、2分42秒!』
下り坂とは言え、並のタイムではない。
初めてカケルくんの走りを見た時、その速さに驚愕したことは記憶に新しい。
私が長距離選手の速度を知らなかっただけではなく、そもそも彼が常軌を逸しているのだ。