第17章 大手町にて
駆け寄ってきた神童くんは、まず真っ先にユキくんに労いの言葉をかけた。
昨日から今朝に掛けてお互いを支えてきた二人だ。
共に完走できた安堵も感動もひとしおだろう。
電車を乗り換えて東京へ向かう間も、レースの動向からは目が離せない。
「東体大、捕まえられないな」
それぞれのスマホで状況を見る。
ニコチャン先輩はユキくんが捉えられなかった東体大を抜き、8区のキングくんへと繋いだ。
ところがキングくんは同大学の榊選手に逆に追い上げられ、今も尚引き離されている。
聞くところによると、榊選手というのは仙台の強豪校出身で、カケルくんの同級生らしい。
箱根駅伝常連校である東体大ならば、部員も相当数いるはず。
1年生でありながらその中から選手として選ばれるのだから、実力は十分なのだとわかる。
「カケルやハイジほどじゃねぇけど、赤毛ワカメも上位ランクの選手だしレース慣れしてるからな、離されるのは仕方ない。でもキングだってペースが乱れてるわけじゃないから。心配ないだろ」
「うん」
赤毛ワカメ…は、榊選手のことだよね…?
「ただ、この区間で順位を上げるのは難しいだろうな」
8区は前半こそ平坦な道が続くものの、後半は9kmに及ぶ上りが立ちはだかる。
まさに今、キングくんはその傾斜を上り終えて8区最大の難所、遊行寺の坂に差し掛かったところだ。
この坂の過酷さは箱根山中に次ぐとも言われている。
「大丈夫、大丈夫!キングさんがこのままキープしてくれたら、きっとカケルがごぼう抜きするって!」
「そうだね」
寛政大は今16位。
シード権獲得の壁は、容易くはない。
相変わらず厳しい状況が続く。
電車内は思ったよりも混雑はしていなかった。
だからと言って、座れる余裕はない。
「ユキくん、足、大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
「僕、荷物持ちますよ?」
「だーいじょうぶだって」