第15章 天下の険
『神童さぁ〜ん!!』
『無事でよかったぜ!!』
『マジで凄ぇよ、神童さん!!』
『よーし、死んでねぇな!?』
神童くんがスマホ画面を覗いた途端、歓喜に沸く声が一斉にスピーカーから聞こえてくる。
「みんな、よく頑張った。明日もチャンスはある!」
簡潔に、そして力強く、ハイジくんは主将らしく鼓舞する。
『っしゃァァァ!!!』
『誰っすか、今の』
『キングだろ。どうせ』
『どうせってちょっとぉぉ!!』
気合いを入れる時に声が大きくなるのは、キングくんの癖だ。
「うるさい。静かに!」
そしてそれをたしなめるのは、大抵ユキくん。
早朝から今まで緊張の連続だったこともあり、見慣れたやりとりに思わず口元が緩んでしまう。
「あの。"アレ"、やりませんか? 」
神童くんが拳を上げるポーズをしてみせる。
今日5区を走ってきた神童くんだからこそ、身に沁みたはず。
箱根の山を制することが、いかに困難なことかを。
だからこそ、心をひとつに。
決して一人きりではない。
走る先にはみんなが待っている。
「お前が一番実感込められそうだな」
「やりましょう!」
ユキくんとカケルくんも頷き、十の拳が円になる。
次の瞬間、私の左右の手を引く、二人。
ユキくんと、ハイジくんだ。
「舞も」
「…いいの?」
「当たり前だろ。舞ちゃんも含めてチームなんだから」
「あっ、ハナちゃんは!?ハナちゃんにも電話!」
思い出したかのようにジョージくんが声を上げた。
残念ながら電車で移動中だと伝えると、少しガッカリしながらも気を取り直す。
「じゃあハナちゃんの分も、舞ねーちゃんが!」
みんなが片手を差し出すところを、私は二人分、両手を掲げる。
「箱根の山はー?」
「「「天下の険ー!!」」」
絶対に大丈夫。
結束力なら、どこのチームにも負けない。
明日の復路も、きっと素晴らしい走りを見せてくれるはず。